前置き
M-1グランプリ2019は今までのM-1の中で一番いい大会だった。
圧倒的ダークホースのミルクボーイが優勝したこともそうだが、和牛の1stステージ敗退にぺこぱの活躍、ラストイヤーかまいたちの貫禄の漫才などなど語りつくせないほどの名場面があった。
しかし、その大会の成功の立役者は紛れもなくトップで漫才を披露したニューヨークだった。
あの大会でニューヨークの『噛みつき芸』は覚醒した。
vs世間
ニューヨークはボケの嶋佐和也とツッコミの屋敷裕政によるお笑いコンビ。
2010年結成で、東京吉本の同期にはおかずクラブや鬼越トマホークなどがいる。
そんなニューヨークのネタは【毒たっぷりの偏見】が特徴的だ。
「ブスは全員敬語から入る」
「パリピは人生で本を5冊読むか読まないか」
昔から嶋佐のボケに偏見を容赦なく浴びせる屋敷のやり取りがお笑いファンでは評価されていた。
しかしネタを見るのはもちろんお笑いファンだけではない。
ほとんど一般人に喧嘩を売っているような漫才のため、テレビに出るたびにネットで叩かれ炎上していた。
「パンツマン事件」がその最たるもので、一般人いじりが激化しすぎることも度々あり、いつしか【ニューヨークvs世間】の構図が出来上がっていたように思う。
そのイメージをガラッと変えたのがM-1グランプリだった。
vs松本人志
M-1グランプリ2019が成功した最大の要因はニューヨークだと各所で評価されている。
その理由はネタではなくネタ終わりにあった。
トップの出番でネタを披露したニューヨーク。
M1決勝で歌ネタと攻めたニューヨークだったが、トップバッターとしても点数は思ったよりも伸びず。
審査員の上沼恵美子や立川志らくが絶賛する中、ネタのコメントを求められた松本人志が一言。
「ツッコミの人が笑いながら楽しんでる感じがそんなに好きじゃない」
この一言で裏の芸人たちにも緊張が伝わった。
それに見ているお客さんも視聴者も、そういう目で見てしまうようになりうる発言。
そこでニューヨークが放った言葉。
「最悪や!」
会場が笑いに包まれた。
そこからも引き下がらず悪態をつくニューヨークの姿勢が、M1を成功に導いた。
この「最悪や!」の一言には二つの功績がある。
一つは「M-1グランプリをピリッとした雰囲気にさせなかったこと」
もう一つは「ニューヨークが噛みつきを『お笑い』として成立させたこと」
今までの『噛みつき』はただの喧嘩で「お笑い」としては成立していなかった。
それを全国放送の賞レースで大先輩の松本人志に「最悪や!」と言ったことで「お笑い」として成立させ、とうとう『噛みつき』を芸に消化させたのだ。
ここがニューヨークにとって大きなターニングポイントだったと思う。
ネタのキャラをそのまま平場で披露できたことはテレビ業界にも大きなアピールになったし、視聴者にもそういうイメージを植え付けることができた。
M-1グランプリでの【ニューヨークvs松本人志】がニューヨークの『噛みつき芸』を覚醒させた。
vs第7世代
先日放送された「爆笑問題のシンパイ賞!!」でのニューヨークの立ち回りは圧巻だった。
その放送では「芸人たちのシンパイネタSP」と題し、霜降り明星率いる「第7世代チーム」vs爆笑問題率いる「賞レースチーム」に分かれネタバトルするという企画が行われ、第一週はEXITvsニューヨークが対決した。
EXITはキャラに反した真面目な漫才「米中貿易摩擦」、ニューヨークはモラルを全部無視した漫才「コンプライアンス」
両組ともネタは面白かったが、それ以上に霜降り明星、爆笑問題を交えての平場がとにかく面白かった。
ネタの感想が一通り終わった後、アナウンサーの新井恵理那が「ニューヨークさんは第何世代なんですか?」という質問を皮切りにいわゆる第6世代に分類されているニューヨークが第7世代に対して次々と文句を言い始めた。
「俺たちは第7世代のリーダーだ」
「粗品は悪魔や」
「りんたろー。さんはこっち側やろ」
正直、第7世代は噛みつきやすい対象ではあるが、安易に噛みつくのは危険だ。
売れている人が言えばどうしても言い方に角が立ち、逆に売れてない人にとってはそもそも立場がない。
ただニューヨークの凄いところは、自分たちとほとんど同世代で角が立たないうえに、第7世代に対してあえて下手に回ることで『噛みつき芸』を笑いやすくしているところにあるのだ。
大先輩の松本人志に噛みついたように、自分たちが「下剋上」する形に持っていくことによって、ニューヨークが自分たちの強みをさらに生かすことができている。
さらにEXITの兼近もニューヨークに負けじとそこで反論したことがニューヨークの暴走に繋がって、より番組として面白くなっていた。
「俺たちがBOOMERとプリンプリンと一緒なわけないやろ!」
【ニューヨークvs第7世代】の対決は『噛みつき芸』をものにした瞬間だった。
vsお笑い界
『噛みつき芸』を完璧にものにしたニューヨーク。
M-1後はよくテレビでも見かけるようになり、YouTubeでの活動も活発に行っている。
【ニューヨークvsお笑い界】
お笑い界を引っ掻き回す存在として、ニューヨークはこれからも「下剋上」し続けてほしい。
(文:つちへん)